持続可能なきょうだい児支援、
行政との連携について考える
・2024年2月23日(金・祝) 開催
・会場:かながわ県民センター 2階ホール
・当日参加者数:51名 ・録画配信申込者数:100名
・公益財団法人小林製薬青い鳥財団の助成を受けて実施しました
2019年から継続開催しているシンポジウム、今回で5回目となりました。基調講演では、NPO法人しぶたね様にきょうだい児支援について詳しく教えていただきました。パネルディスカッションでは「行政との連携」をテーマとして、登壇者の皆様からお話をいただきました。シンポジウムの内容を要約してレポートします。
◆NPO法人しぶたね
理事長 清田悠代様/プログラムディレクター シブレッド様
きょうだい支援について
しぶたねの活動で出会うご家族には、入退院を繰り返している子どもや、産まれてからずっと病院で過ごしている子ども、24時間医療的ケアが必要な子どもが多くいる。近年、そのような子どもが増えているが社会的なサポートが追い付いておらず、親ががんばらないといけない状況にある。子どもと親への応援には少しずつスポットライトが当たるようになってきているが、その横の暗くなるところにきょうだいが隠れてしまっているように感じている。
きょうだいは、人生のステージごとに様々な悩みを持つと言われている。子ども時代の悩みは大人になって帳消しになるわけでなく、その時経験したことは心の中に残る。小さなきょうだいに関わる人は、大きくなった時どんな悩みを持つのか想像してみてほしい。大人のきょうだいに関わる人は子ども時代をどんな風に過ごしていたのか想像してみてほしい。そうすることで、きょうだいがサポートがほしいと思った時に、自然とつながれるような世界を作っていきたい。
家族はモビールのようにつながっている。子どもの病気により必要になる親やきょうだいへのケアは、誰かに手厚くあってもバランスが崩れてしまうことがある。そんな時、家族の中だけでバランスを取るのではなくしたい。回りに支えたいと思う方々がいて、その周りには地域社会がある。囲む輪が厚くなっていくと良い。看護師、療育センター職員、学校の先生、習い事の先生など、きょうだいに出会う人はみんなきょうだいの支えになれる人。親以外にもたくさんの人に支えられた経験を持てると良いと思う。
きょうだい支援の行政との連携
行政の方がきょうだい支援の視点を持ってくれることは大きなこと。制度の中に位置づけられると、どこに住んでいても支援を受けられるようになる。2015年の児童福祉法改正で、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業の中に「きょうだい」への支援が入った。医療的ケア児等総合支援事業、放課後等デイサービスガイドライン、こども大綱などにも「きょうだい」へのサポートの必要性が記されている。
2023年4月10日には一般社団法人日本きょうだい福祉協会が発足した。様々な立場のきょうだいそれぞれに、必要とされている支援がある。みんなでつながって、声を集めて社会に働きかけていこうという動きが作られている。今日の会場にもきょうだい支援をしている方がたくさん参加している。みんなが作った波が繋がってうねりを起こし始めている。
しぶたねの活動紹介
1.きょうだいさんのためのワークショップの開催
安心の中で遊びきる「きょうだいさんの日」。小学生のきょうだい向けにスタートした。親子で触れ合えるイベント、中学生以上向けなどに展開し、最近では地域の保健所での交流会でコラボしたり、兄弟姉妹を亡くしたきょうだい向けに開いたりしている。自分は大切にされたという実感を積み重ねられると良いと思う。
2.病院:廊下の活動
病棟の中には、中学生以下は入れないことが多い。廊下で待つ子ども達と遊ぶため、ボランティアがマットを敷いておもちゃを用意しておく。この活動はコロナ禍以降休止中。少しでも安心の時間を過ごせるといいなと、「シブレッドのへやのとびらあけておくね」というオンライン会を毎週金曜日に開いている。きょうだいならではの話は少なく、日常の事を話してくれる。「もやもやがふわふわになった」「金曜日が好きになった」という声が届いている。
3.支援者に向けてのたねまき活動(寄稿・講演・きょうだいさんのための本作成・シブリングサポーター研修・4月10日「きょうだいの日」の制定 など)
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「きょうだい」たちが、子ども時代を安心の中で「子ども」として過ごせるように祈っている。
また、親御さん、支援者さんもがんばっていて、悩まれていることがある。大人も自分にOKを出してほしい。(OK出せない方にはシブレッドさんからOKビームを送ってくださるそうです。)
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各登壇者からの活動紹介の後、しぶたねのお二人にもパネリストとして参加いただき、きょうだい児支援の行政との連携事例やそのきっかけについて教えていただきました。
司会は、弁護士で全国きょうだいの会 副会長の藤木和子様にお願いいたしました。
◆認定NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト
プログラムコーディネーター/看護師 本多貴子様
横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち(通称:うみそら)とは
生命にかかわる病気や状況(LTC)によって、治療や療養中心の生活を送る子どもと家族全体を対象にした施設。理念は「この瞬間を笑顔に!みんなで支えて叶えたい」。
子どもと家族それぞれをありのままの姿で受け入れ、家族みんなで憩い、交わる時間と環境を提供することを大切にしている。
うみそらを利用するきょうだいさん
普段の関わりの中で、「どこにも行けないな、、」「自分だけ外で遊んで悪いな、と思うことがある」など気持ちを話してくれることがある。
LTCにある子どもと親を気づかい、だれにも相談できず我慢する気持ちを抱えている子も多く、「こどもでいること」「こどもの時間」が保証されていない。
それを踏まえて、きょうだい一人ひとりの声に耳を傾け、どんな風にすごしたいか心寄せることを大切にしている。個別に関わることで信頼関係を築き、「またうみそらに行きたい」という気持ちを持ってくれる。
県長期療養児支援事業でのきょうだい支援について
2022年から神奈川県の長期療養児支援事業の委託を受けて、きょうだいのためのプログラムを年に2~3回、オンラインと対面で実施している。活動を通じて同じ様な状況の仲間と出会うことや、安心の空気の中で遊びつくすことを目的にしている。
野外の活動とした理由は、コロナ禍における子ども達の安全性の確保や、うみそらでの関わりの中できょうだいから「海で遊びたい」という声があったこと、野外活動を展開できる運営メンバーがいたことなど。研究からも同じ背景を持つきょうだいがキャンプに参加することで、メンタルヘルスの改善等が認められている。
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心がけているのは、スタッフが本気で遊ぶこと。空間や時間・心に余白をもつこと。環境を整えてやりたい事に集中できるようにすること、サポートし過ぎず信じて見守り寄り添うこと、など。
きょうだいたちの長い人生、自分たちを大切にしてくれた仲間がいたという原風景を作り、ふとした瞬間に思い出してもらえるようにしたい。
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◆認定NPO法人スマイルオブキッズ
リラのいえきょうだい児保育施設長 松島より子
リラのいえきょうだい児保育の概要説明
神奈川県立こども医療センターに通院、入院している子どものきょうだいをお預かりしている。リラのいえは同センターを利用する家族のための滞在施設で、保育室はその中に併設。横浜市の認可外保育施設としての承認を受けている。
お預かりするきょうだい児は、小さくて言葉で表すことができないこともあるが、不安やストレスを感じているのはわかる。一人一人の子どもに寄り添って、楽しく安心して過ごせるような保育を行っている。
2020年頃からコロナ禍できょうだいが同センターに入ることができなくなり、保育の利用者数が増えている。1回だけの利用が半数を占めるが、子どもの長期の治療や入院により、長期間何度も通うきょうだいもいる。
2022年1~2月に初めて行った利用者アンケートでは、9割の方の満足を頂いたが、同センターからの距離や休日の保育希望があることなど課題が見えてきた。
同センターには、きょうだいお預かりのボランティア活動がある。3ヶ月に1回、同センターの事務局も交えて「きょうだい児支援連絡会」を開催している。
きょうだい児お預かり・保育に関するニーズ調査
2024年1月に、同センターを通じてきょうだい児お預かり・保育のニーズ調査を行った。
保育の利用者が増加しているが、運営費は1時間300円の利用料と、不足分を賄う寄付金や助成金によって成り立っており、継続性に不安を感じることがあった。「持続可能なきょうだい児支援を実現する」ことを目的としてアンケートを実施した。
アンケート結果では、「きょうだい児」という言葉があることを、病児家族でも知らない人が2割いた。「ヤングケアラー」と同様に、「きょうだい児」ももっと社会に認知されてほしい。預けたい時に預け先が見つけられなかったことがある親が半数ほどいるなどの課題や、きょうだい児を預けた経験がある方の親が経験のない親と比べて睡眠による休息をとれている傾向があることもわかった。
今後は、ニーズ調査の結果を生かせるような取り組みと、財政面の課題の改善を目指していきたい。
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リラのいえに来る子ども達は大きくなっても、「きょうだい」の立場は一生続く。
それぞれのステージにそれぞれの支援が用意されていて、きょうだいたちが明るく元気にすごせるような社会になってほしい。
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◆横浜市こども青少年局
保育対策等担当部長 渡辺将様
保育所等へのきょうだい児入所の取組
横浜市では7万人が保育所を利用している。兄弟姉妹がいる場合は同じ園に入りたい方が多い。ランクや利用調整指数が上がる仕組みを導入し、9割位は同じ園で通っている。
一方で、「保留児童」のうち、兄弟姉妹一緒の園に通いたいために待っている人が477名程いる。転入・就労等のため兄弟姉妹同時に入所を希望する場合にもランクが上がるようにしたり、保育ニーズの高い1~2歳児の定員を増やしたりしている。
一時預かりの取組
保護者の病気や入院・リフレッシュのために預かる取り組み。
乳幼児一時預かりは、市から事業者への運営支援があり、利用実績に応じた補助金が交付される。運営実績があること、預かりのための施設を作って運営すること、職員を確保することなどが必要。地域により整備を行う優先度が異なるため、最優先・優先・その他の地域を指定。リラのいえのある南区は優先地区に指定されている。
利用希望が多く、特に0~2歳児の希望が多い。予約が埋まっていて、直前の予約は取りにくいのが現状。市としても、事業所への補助を増やすなどして改善を図っている。
その他の取り組み
横浜子育てサポートシステムや、病児・病後児保育などもある。
また、地域療育センターでのきょうだい児預かりのNPO法人等への委託実施が、令和6年度の予算案に組み込まれている。市内9か所中、西部・南部・あおば・北部の4カ所で予定されている。
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◆クロストーク
〇しぶたねさんの保健所と連携したイベント開催のきっかけは?
しぶたねさん:親向けの講習会や保健師向けの研修等の依頼をいただくことがあり、そこから繋がって、次はきょうだいと遊ぶ会を開きたいと保健師の方が声を上げてくださった。
その他の例として、春日部市の公民会の研修は、医療的ケア児の親がしぶたねを知って、呼んでほしいと言ってくださり実現した。
きょうだい支援という視点を持つ人が増えていくことが大切だと思う。そのためには、積極的に情報発信して活動を知ってもらうことが一番大事。
〇行政の方や親としても、制度があると動きやすいと思う。小児慢性特定疾病児童等自立支援事業にきょうだい支援について盛り込まれた経緯は?
しぶたねさん:親から声が上がったことが大きいと思う。また、きょうだい支援を大切に思ってくださった行政の方や医師の方が動いてくださった。まずは「任意事業」としてはじまったが、「努力義務」に位置付けられたように進んできている。実績により必要性が認められている
〇うみそらの立ち上げから市の応援を受けられている理由は?
本多さん:設立に向けた啓発活動をしていた頃、代表の知人の議員さんを通して市にアプローチをした。市議会で質問し、当時の市長が「必要性を感じる。市として支援したい」という答弁をしてくださった。その議事録を見た当時の医療局長が窓口になると言ってくださった。情報共有の会議を繰り返し、「小児がん等の重い病気の子どもと家族の支援施設」という位置付けで、横浜市の保健医療プラン2018に入れていただいた。現在も定期的なミーティングを続けていて、金銭的な支援のほか、他部署への働きかけなど「病気の子どもと家族のために」とう気持ちを持って支えてくださっている。
〇きょうだい児支援イベントを県の委託事業で実施している経緯
本多さん:うみそらはコミュニティ型こどもホスピスで、寄付のみで運営しているため資金集めに試行錯誤している。その中で、代表が県の小慢自立支援事業の窓口に直接交渉。療養支援事業で運営費の予算立ては難しいとの回答があったが、それ以外の方法を考えてくださった。県域(逗子・三浦など)でのピアサポート事業等が進んでいないので、それを担えるようなら一部を人件費や活動費に使えるかもしれないと提案があった。
〇リラのいえが行政と連携するにあたっての課題は?
松島:リラのいえの土地は、県有地を無償でお借りしている。そのような連携の他に、資金面で持続可能な体制を築くために行政と連携していくことが課題。きょうだい児保育は一般の子どもを受け入れていないため、横浜市の一時預かり事業の対象にならない。こども医療センターに通う家族に限定する意義は、きょうだい児の気持ちに寄り添って楽しく過ごせるようにすることと、親が前向きな気持ちを持てるような保育をするため。
渡辺さん:南区の福祉保健センターから、市役所の責任職の人権研修として、リラのいえの施設見学をしていると聞いた。参加した職員は、活動を知ることができて感銘を受けたとのこと。リラのいえから相談を持ち掛ける機会にもなっていけるのでは。
〇横浜市療育センターでのきょうだい預かりの委託事業のきっかけ
渡辺さん(会場参加されていた市職員の方からもご発言いただきました):都筑区で一時預かりを実施している団体が、北部療育センターでのきょうだい預かりを市への提案事業として応募、3年間の助成を受けた。窓口は市役所一階の市民協働推進センター。行政のどの部署とつながると良いかなど助言をもらえる。
療育センターでは親が預かりボランティア活動をしていたが、継続が難しいということもあった。提案事業は今年度で終わりだが、市が必要性を感じて予算を付けるようになった。
〇行政とのつながりで他にも考えられること
渡辺さん:よこはま夢ファンドに登録して、寄付金を募るという方法もある。団体内のボランティア等に行政関係の方がいれば各部署に話していただく、各区役所のこども関連の部署に持ちかけるなど、身近な人や機関に相談するのも有効だと思う。
きょうだい児保育は、保育、医療、福祉などの分野にまたがっていて担当が決めにくいこともある。市民協働推進センターなど、近くの繋がりから話していけると良い。
〇うみそらの国とのつながり
本多さん:こどもホスピスの支援の対象が、きょうだい児に限らず「重い病気の子どもとその家族」と広いため、行政とつながりやすい傾向はあると思う。国にも窓口はなかったが、国会議員にこどもホスピスの課題を取り上げてほしいことを訴え、勉強会を開いた。そうしているうちに、こども家庭庁が開庁し窓口ができてきた。「こどもホスピス」とう言葉を定義づけられるように調査を進めている。政策づくりの議論が進んでいるほか、こども大綱にも挙げられた。
うみそらの市・県との協働が好事例となり、全国にこどもホスピス設立の動きが広がっている。地方では更に寄付が集まりにくいという課題があるが、北海道や愛知で行政連携の形ができつつある。
〇厚労省の研究について
しぶたねさん:厚労科研(医療、教育、福祉、NPO等の会議)の働きかけで任意事業が努力義務になるなど成果を上げている。
任意事業を実施している自治体が全体の1割に満たない理由を調査した。実施しない理由として、前例がないこと、二-ズがわからないこと、どのNPOと連携すれば良いかわからない等が挙げられた。ひとつひとつ解決していけば実施できると考えると、やはり関係者が事例共有していくことは大事だと思う。
◆まとめ
藤木さん:会場にはきょうだい児支援に取り組んでいる方も多いが、行政と連携している方は少ない。ヤングケアラーがブームになったことで、自治体から研修会の依頼などがある。きょうだい児支援も重なる部分があるので、問題意識を持ってくださっている手ごたえがあるが、一度限りの関わりで終わってしまうことが多い。さらにその次に進んでいくことを考えたい。
◆終了の挨拶
認定NPO法人スマイルオブキッズ
理事長 松尾忠雄
このシンポジウムの1回目は、主催である私たち自身学びたいという気持ちから研修会としてスタートした。回を重ねて様々な方に登壇いただき、今回は市の職員の方に来ていただきありがたく思っている。きょうだい児保育に限らず、病児保育など、小さな事業だけど大事な事業はたくさんあるが、行政からの援助は簡単には得られない。このような事業に光が当たるようにするためにも、私たちの活動を継続していきたい。
*ご参加の皆様ありがとうございました*
当日参加、動画視聴された皆様へのアンケート回答をまとめました。
ご回答ありがとうございました。